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量子コンピュータの衝撃 深田萌絵

ムーアの法則終焉が世界を変えてしまった。ムーアの法則とは
コンピュータチップの処理能力は18か月で2倍になるという
ものである。チップ処理能力向上には単に電気信号が通る回路
を微細化するだけでなない。トランジスタと呼ばれる電気信号
の流れを高速でオンオフできるスイッチをどれだけ多く詰め
込んで積み上げられるか、集積度を高めることができるかに
かかっている。また絶縁体を薄膜化していくとで電子漏れで
エラーが生じる。これをトンネル効果と呼ぶ。これは量子力学
によるものである。量子力学の法則に従うコンピュータを
つくろうというのが量子コンピュータに至る流れである。

半導体素子で電流が通らないのが0、通れば1として計算させ
てきたのが従来のコンピュータである。これを粒子が0か1で
ある状態を確率で表現し、更にそれが重なった状態でも表現で
きる量子力学の法則に従うコンピュータが量子コンピュータで
ある。

この量子コンピュータが重要なのは暗号解読に強い効果を発揮
することである。暗号は古典コンピュータが苦手とする因数分解
や総当たり計算を多用しなければならない。量子コンピュータは
従来の古典コンピュータと比べてこれらの高速化に強いので暗号
解読に優れている。そうなればDNA解析、ブロックチェーンと
呼ばれる暗号通貨、金融セキュリティも意味をなさなくなる。
それ以上に重要なのは国家安全保障の問題で、あらゆる軍事シス
テムを乗っ取ることができる。中国は量子コンピュータが各国の
金融システムと軍事システムを無力化できることを理解し、
年間1兆円ものお金を投じて開発を行っている。

5G、AI、自動運転、ブロックチェーンこれら一見別々の技術
に共通するのは監視、個人情報の収集であり、ゴールはデジタル
全体主義である。5G技術を用いた通信基地局を通じて世界中の
デバイス、スマホ、自動車から情報収集を行い、人工知能で個人
情報を解析し、ブロックチェーン技術でお金の流れを共産党へ
提供する。量子コンピュータで全ての暗号は解かれてします。
これら全領域で最先端を走っているのが中国である。

5G通信基地局は4Gの10倍電力を消費する。高密度で大容量
通信を実現すれば数百倍。EV車はエネルギー転換効率がガソリン
車よりも悪く、ブロックチェーンは通貨のやり取りに電気を使う。
つまり人類は電力不足に陥る。そこで中国はアジアスーパーグリ
ッド構想でモンゴルからユーラシア経済圏、成都経由でインド全域
ミャンマー経由でシンガポール。それらを表立って推進するのが
ソフトバンクの孫正義である。送電網とセットになっているのが
5G通信で、吸い上げた全てのデータを解析するのがAI,軍事
レベルの暗号を解くのが量子コンピュータである。

量子コンピュータの種類で室温で使えるものは光しかない。フォト
ニクスを中心としたソリューションが当面のムーアの法則継続の
救世主となる。チップ間通信に銅ではなく光を使えばプロセッサ
そのものが光量子プロセッサでなくとも処理速度は各段に速くなる
うえ、絶対零度の量子コンピュータより安定する。コンピュータ
内部を光で統一すれば、インターネットの光通信と転換するとき
に電力を消費しなくなる。銅線と比べて高い帯域幅を提供する。
世界最高のフォトニクスコンピュータを持っているのがファー
ウェイである。そこで米国政府は米国製のチップ製造技術や
ソフトを使用して販売する企業にファーウェイと取引する場合
はライセンス取得を要求しようとしている。
ファーウェイが設計したチップを台湾TSMCが米国製の製造
装置を使っているのを狙ったものである。

言論、情報が統制されている社会は発展しない。またプロパ
ガンダが盛んな国は本物の科学技術は発展しない。自由な言論
活発な議論が許される社会で哲学者が生まれ、科学技術発展に
貢献してきたからだ。独裁政権で技術が発展したとすれば
自由な社会で自由な思想を持って思考に挑んだ発明者から盗んだ
時だけだ。世界からイノベーションが消えて何年も過ぎた。
米大手IT企業が世界の富を独占し、中小企業やベンチャーから
アイデアを横取りし続けた結果イノベーションは起こらなくなった。
大手企業は中小企業やベンチャーから盗んだ設計・技術を中国に
製造委託するという年月を過ごした結果、真面目に開発する
中小企業は衰退し、先進国は技術と製造力を失い、国力を失い
つつある。ファーウェイの技術的発展は盗用効果である。
ファーウェイは台中トンネル効果を利用した技術取得を行って
きた。台湾企業を通じて中国は技術を取得してきた。

ファーウェイのシリコンフォトニクス・コンピュータに対抗
できるのはアメリカだけではない。光学技術に強い日本も対抗馬
である。シリコンフォトニクス分野で通信とコンピュータ両分野
で高い技術を持っているのがNTTである。NTTはインテル
ソニーと6G通信に向けてシリコンフォトニクスソリューション
を用いた6G連合を築いている。
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米中AI戦争の真実 深田萌絵

そのIT企業のAIは検索エンジンの世界トップに君臨する。
当初人々の行動から発生するビッグデータの解析から人々の
行動を予測できるようになると考えていた。AIが人々の
行動を予測しているだけでなく、AIが出した予測が人の
行動に影響を与えている。検索エンジンを通じて得られる結果
を操作すれば人のマインドを操作できると考えた。
テクノロジーで米国市民を支配する。そうしたら世界も支配
できることになる。では誰がそのコストを払うのか?
世界中のインターネットの検索結果をコントロールする。
そのためには世界中のネットワークインフラを築かなければ
ならない。海底ケーブル、地上の基地局、ネットワークサーバ
など莫大なインフラコストを賄える企業はない。巨大な独裁国家
以外は。米中が繰り広げるAI戦争の実態は監視と言論統制である。
次世代型通信規格5Gは世界中に置かれた中国製5G通信基地局から
収集されたスマホ、デバイス、中国製監視カメラからの情報が中国製
海底ケーブルを通じて高速で中国に収集されていく諜報インフラで
ある。それにAI技術が加わることによって、大量に収集された監視
情報をAIで解析することで潜在的敵対分子を早めに分類して監視を
強化し、潜在的に諸外国のパンダハガー(親中派)政治家に投票し
そうな有権者をSNS上の広告や投稿で誘導する戦略に利用している。
AIで民主主義を操作することができる。

AIの飛躍はプログラムが人工知能に近づいたわけではなく
多くがムーアの法則によって半導体の処理能力の向上に支え
られた。AIに必要な要素技術は半導体技術、アルゴリズム
(ソフトウェア)とセンサーの3つである。
AI開発に必要な要素技術は、まずハードウェアとソフトウ
ェアに大きく2分できる。ハードウェアは半導体の微細化技術
によってコンピュータの演算力向上につながり、それによって
アルゴリズムの複雑化が可能になった。第三次AIブームでは
CPUの処理能力だけでなく、GPU(画像処理技術)も高速
化されたことによって、処理層が複雑・深層化しても処理速度
を落とさず精度向上させることができた。アルゴリズムは探索
決定木、境界条件に分けられる。AIが人間知能に至っていな
い最大のポイントはビッグデータなしには何の傾向も予想でき
ないということである。今のAIは確率統計を複雑に組み合わせ
ているので、統計結果の精度を高めるためにそれを相応の母集団
(データ量)が必要になるからだ。

中国のGFW(グレートファイアウォール)こそが米中デジタル
冷戦時代のベルリンの壁であり、中国共産党のウィークポイント
である。世界中のネット言論はGFWによって検閲され、メディア
やプラットフォーム企業を通じて言論統制がなされつつある。
GFWはゲートウェイと呼ばれるインターネットに通じる通信
サーバーを経由する通信を監視し、中国政府の観点から不適切と
判断される伝送内容を妨害、遮断することに始まった。

GFWとはセキュリティソフトウェアではなく、中国政府が
コンテンツを監視し、検閲するために用いるハードウェアと
ソフトウェアの集合体である。中国共産党は海外メディアを
買収し、反中言論人をとことん潰してリベラルの皮を被った
プロパガンダを流している。保守言論人のユーチューブや
ウェブサイト、ツィッター、フェイスブックなどを凍結削除
させて、逆にリベラルの言論を検索で引っかかりやすくしている。
言論のコンバージェント(収束性)、中国国内の言論と国外の
言論を一つにするというデジタル全体主義政策の1つの目標
とする工作である。

GFWが持つ機能は自国を守るための外国サイトのブロックから
拡張され、諸外国の個人情報からSNS上の言論までも収集して
いる。①収集。国内、国外問わずに世界中から集められたビッグ
データで解析するが、自国企業から集めたデータだけでなく、
PRISM計画に参加した一部の米大手IT企業からもビッグ
データを購入している。中国共産党は米大手IT企業にとって
最高のお客様なのだ。②採点と分類。GFWはそのビッグデータ
を解析して、思想ごとに分類(カテゴライズ)している。
③標的。反中国共産党のグループにカテゴライズされた人々の
行動サンプルを解析し、潜在的な不穏分子を抽出するために
ビッグデータの監視対象をAIでターゲティングする。
④信用失墜攻撃。ディープフェイクというAI技術をで音声や
動画を作成すれば冤罪でターゲットを陥れることができる。
またGFWはIPアドレスへの攻撃も行っている。他人の
IPアドレスになりすまし、IPアドレスが自動的に閉鎖され
接続できなくすることもできる。

TorサーバはIPアドレスを相手に知られることなくインター
ネットに接続したり、メールを送信できたりする匿名の通信
システムできる仕組みだが、Torプロジェクトにボランティア
で参加者に出口ノードが提供されているが、これにステルスで
中国共産党が提供しているので安全とはいえない。
またDNSサーバと呼ばれるURLをIPアドレスに変換する
サーバは世界に13台しかないが、親中のオバマ政権はDNS
ルートサーバーを米国政府管理から民間に委ねることを決定
したためにDNSルートサーバーは中国共産党に支配されつつ
ある。

サイバー攻撃力を高めるための中国の技術革新が3つのステップ
がある。①日米独から半導体技術を盗み、半導体技術を向上させた。
米中貿易戦争のメインが半導体技術になっているのはこのためで
ある。②中国は盗んだ技術をベースにスマホや通信基地局の技術を
向上させて世界に格安で販売してきた。③PRISM(通信監視
プログラム)計画に参加していた米IT企業やソフトバンクの
ビジョンファンド経由でAI技術を持つ企業と連携し、AI技術を
中国に移転する。AI戦において民間人をまもるには日本国が3つ
のポイントを押さえなければならない。①中国に半導体技術を渡さ
ない。AIの処理速度は半導体技術とアルゴリズム技術に依存して
いる。日本は半導体技術という衰退産業に投資するなとメディアが
報じているが、それは台湾、中国企業に売却しろといっているのと
同じであり、中国側の宣伝である。世界の半導体市場はは20年で
20兆円から40兆円へ拡大している。②中国製ネットワーク機器
は使わない。それらにはバックドアがあり情報が盗まれている。
スマホ、ルーター、モバイルルーター、IP監視カメラ、通信基地局
海底ケーブルなどである。わざわざ通信料金を払ってハッキングして
もらっているようなものである。③中国にデータを渡さない。AIで
人間関係や思考、嗜好を解析するにはビッグデータが必要である。
そのためどんなに優秀なAIでもデータを渡さなければ無力化できる。
ロシアはポイズンアタック技術を使い中国からのサイバー攻撃を防いで
いる。ポイズンアタックとは本物のデータと偽物のデータを混ぜて
管理することで、ハッキングした情報をそのままビッグデータ解析に
かけても意味がないものにしている。

VPN(バーチャルプライベートネットワーク)は本当のIPアドレス
を暗号化して、新しいIPヘッダをつけてやりとりをする。
本当のIPアドレスと中身がわからないようにするためのものだが、
全体の8割のサーバーが中国に置かれていると言われているので安心
できない。

デジタル冷戦のカギは暗号技術である。
暗号技術に優れている国はロシア、中国、イスラエル、ドイツ、
アメリカである。暗号に必要なのは数学と心理学だ。数学的に
どんなに強固な暗号技術で優れていた人間が持つ心理的な癖や
カギの管理方法により、これまでいくつもの暗号が解かれてきた。
優れた暗号とは情報エントロピーが大きい状態、つまり
誰がどう見ても乱数にしか見えない状態まで傾向を滑らかにして
なくし、暗号化したデータである。2019年9月グーグルが
量子コンピュータに関する論文を発表した。スパコンで1万年
かかる計算を200秒で行ったというのだ。
グーグルは中国と関係が深い企業である。グーグル次第で世界
各国の国家機密は全て解読され、兵器による防衛も無力化され
かねない。トランプがグーグルを叩いてきたのはグーグルが
米国政府より中国政府の意向を優先しているからである。
暗号技術世界一が中国となれば、アメリカは覇権を失うことになる。
暗号技術の覇権は軍事技術の覇権のみに留まらず金融覇権を握る
ことを意味する。量子コンピュータによる暗号技術競争のゴールは
暗号通貨の覇権だ。

日本の半導体産業は衰退したといっても半導体企業を持たない国
は圧倒的に多い。半導体の中でもセンサー関連半導体は日本は
トップクラスである。今後センサーデータを主としたAI処理が
増加するので次のトレンドを握るチャンスはある。
AIアルゴリズム開発のエンジニアはたくさんいるが、ほとんど
の国はCPUやメモリなどコンピュータのサプライチェーンを
国内に有していないので米国か中国に依存することになる。
国として自立するには半導体製造力を強化するしかない。
1986年日米半導体協定で日本の半導体産業は台湾や韓国に
技術移転を始め、その翌年にはファーウェイが誕生し、台湾
半導体シンジケート青幣が中国半導体技術強化を助けた。
米中デジタル冷戦の発端は日米半導体協定であり、通信戦、
諜報戦、AI戦もコアのエンジンは半導体である。
半導体技術が中国に移転されて世界のパワーバランスはここ
まで崩れてしまった。

AI戦、半導体戦、通信戦における攻防で米国が標的にして
いるのが、世界の半導体業界を牛耳る台湾半導体シンジケート
である。TSMC,UMC、ホンハイが半導体ファウンドリと
して、諸外国の技術を盗む入り口になっている。
トランプはUMCに対して制裁を発動している。

次のターゲットはソフトバンクである。ソフトバンクは
ファーウェイ日本進出の足掛かりとなっただけでなく自動車
産業を牛耳るため世界の大手配車プラットフォーム企業の
ほとんどに出資している。孫正義は人的な関係からして
中国共産党と関係が深いとワシントンにある調査会社が
指摘している。米スプリント買収から米政府に目をつけられ
英ARM買収の資金は中国共産党がバックではないかと
言われている。そしてソフトバンクVF(ビジョンファンド)
はAI中心に出資すると発表したことから、米国政府の
堪忍袋の緒が切れた。日米政府のファーウェイ利用禁止
発表や通信事業者の携帯料金引き下げ要請はソフトバンクの
コストに跳ね返りソフトバンク潰しと言われている。
コスト増を賄うためソフトバンクは通信部門をIPOさせる
が直前でファーウェイ創業者娘が逮捕され、世界的な通信
障害が発生したため上場は公募割れとなった。
VF2号がAIファンドとされ世界のAI企業に出資を
始めているものの、米政権は止めようとしている。
VF2号になかなか資金が集まらず、投資を渋るサウジ家
アラムコIPOによる資金調達でVF2号に投資すれば
いいと、孫正義がテリー・ゴウをサウジに派遣して交渉
していたら、2019年9月上場目前のサウジアラムコの
油田がドローンで襲撃され、VF2号への出資額は大幅に
減らされた。米政府はソフトバンクがARMを手放すことを
目標に経済的に追い詰めにかかっている。

ものづくり維新

サムスンを変えた吉川氏が語る ものづくり維新世界で勝つための10箇条サムスンを変えた吉川氏が語る ものづくり維新世界で勝つための10箇条
(2014/06/20)
吉川 良三

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サムスン電子を躍進させたプラン作成に関わった著者が苦戦する日本製造業
への提言です。非常にわかりやすくポイントを押さえて説明しています。

現在日本では製造業低迷の原因を6重苦だとしています。

1.長く続いた円高 

2.諸外国と比べ高い法人税 

3.厳しい労働規制

4.温暖化ガス排出規制

5.外国との経済連携の遅れ

6.電力不足

確かにそういう面もありますが、著者はそれが主たる原因
であるというには無理があるといいます。これらはいずれも
日本企業に決定的に不利な状況を招くものではないからだ
といいます。

日本のものづくり低迷の主たる原因はものづくりの世界で
起こった破壊的イノベーションへの対応を怠ってきたことに
あると著者は指摘しています。問題は外的に要因がある
のではなく、環境の変化にキチンと対応しなかったからだと
しています。

ここでいう変化は「グローバル化」と「デジタル化」です。

世界はこの二つをキチンと織り込んで動かないと、厳しい競争
に勝てないものに変わっていきました。この変化はそれまでの
常識や価値観が劇的かつ革命的に変わるパラダイム転換の
ようなものだった。

HBSのクリステンセン教授のイノベーションのジレンマで説明
することができる。どんな技術もそうですが、その進歩はやがて
市場が求めているレベルを超えていきます。
それでも進歩が止まらず、その技術を使って作られる製品は
やがて市場の誰も望まないような過剰機能を有したものに
なっていく危険がある。後発の国々の技術も進歩は先進国
に比べて遅いですが、レベルアップが図られて、やはり後発
の技術もやがて市場の要求するレベルを超えるものになる。
そうなると、製造コストが安く抑えられる分だけ、後発の国々
の方が競争力が高くなる。

ある段階までは高い技術力を有していることが大きな競争力
になりますが、技術の進歩が市場が望んでいるレベルを超えた
ところに来たときにはこの限りではない。市場の要求するレベル
のものが、誰もが簡単につくれるようになるからです。
これがグローバル化とデジタル化によって現実のものになった。

ではグローバル化、デジタル化とは何なのか。

グローバル化は国際化と混同されることがよくありますが、国際化
はコスト削減のために海外に輸出基地をつくるようなものを言います。
グローバル化は市場として期待される地域に工場や拠点を置いて
現地の文化やニーズにあった製品設計などを行う、地域密着型の
ものづくりのことを意味します。

工場や開発部門を海外にもっていくだけでなく、材料を現地で調達
したり、幹部やスタッフもまた現地で集めたりすることが求められ
ます。「現地」「現材」「現人」が基本になる。

日本のものづくりは国内や一部の先進国を市場として捉えて、
高品質の製品をつくることに注力してきた。日本国内と欧米相手
にしているだけで世界市場を席巻できた。
新興国の市場が拡大し、消費のボリュームゾーンと言われる
年収5000ドル以上の人たちは年間2億人強のペースで増えている。
日本がこれまでターゲットにしてきたのは年収3万5000ドル以上の
人たちです。豊かになってから相手にするのでは遅いです。

これまでターゲットにとしてきたTOP(35000ドル以上)2億人より
ワンランク下にあるMOP(5000ドル以上)8億人まで対象を拡大
させるということ。ターゲットとして狙うこのクラスにより早い段階
で日本製品をアピールしておかないと競争に打ち勝てない。

もう一つはデジタル化です。
ものづくりのデジタル化はCAD/CAMという設計・製造システムの
登場やインターネットの普及によってもたらされました。
コンピューターをある程度使えれば、モノづくりができるという
画期的なもので、日本のものづくりが大切にしてきたノウハウを
ほとんど無力にしてしまう劇的なものでした。

アナログなモノづくりには、経験豊富な設計者や技術者がいなければ
モノを造ることができなかった。そこに日本の優位性があった。
具体的なアイデアを設計者が図面化するところからはじまる。
どんな形状でどんな材質でやサイズの部品を用意し、それをどう組み
立てるかなどあらゆる情報を細かく示している全体の計画書のような
ものです。立体形状をしているものを全て紙の上の二次元の世界に
表現したもので、図学の知識が必要だった。

この設計情報に基づいて実際に生産現場でものづくりを行うと、細かな
問題が必ず出てきました。こういう問題に対処するうえでも、知識や経験
が必要だった。だから部品の発注から組立まで一切滞りなく行うためには
いろいろな問題に対処できる技術者の存在が不可欠だった。

3D-CADは設計情報を立体形状のまま現場に示すことが可能になり。
図学の知識がなくてもモノをつくることができるようになった。
パフォーマンスを向上させるための部品同士の組み合わせや、部品を
効率よく配置することで、狭い空間をうまく使うことも、コンピューターに
様々な情報を取り込んでシミュレーションを行うことで簡単にできるように
なりました。

こうした簡略化を後押ししたのが、モジュール化とマイコンの進化です。
結合部分が標準化されたモジュールの組み合わせのみで製品をつくる
ことができるようになった。だから日本得意の自前の部品開発を行わ
なくて済むようになった。またマイコンの高性能化で、同じく日本得意の
すり合わせさえ可能になった。マイコンによるすり合わせ制御である。

すり合わせは複数の部品をうまく組み合わせて一つの機能を実現する
ものづくりの手法で、インテグラル型とも呼ばれている。乗り心地の良さ
運転のしやすさ、静かさなど~さを実現する原動力だった。
長年の活動のなかで培ってきたものづくりのノウハウが、あるときから
ノウハウになりえなくなったということだ。

ハイエンドを対象としてきた日本にとって品質的には粗悪品に見えますが
ローエンド市場や新興国で求められる品質や機能への要求なら十分に
対応できる。だから後発企業はアナログものづくりとは比較にならない
スピードで次々と新たな製品を生み出している。

ハイエンド製品も最新の設計情報をインプットしたコンピューターと、最新の
加工情報をインプットした工作機械があれば、それこそ優れた設計者や技術者
がいなかろうと、世界中日本でやっているのと同じレベルのものをつくることが
できる。

日本では「イノベーション」「マーケティング」「コンプライアンス」という言葉に対する
理解が誤解釈されている。

イノベーションは革新、新機軸というふうに訳されていますが、イノベーションを
起こすのに新技術が必要だという考え方をしていると、必然的に行動は制約される。
現実には既存の技術でも使い方を変えたり、組み合わせを変えることで、イノベーション
を起こすことができる。アイフォンやダイソンの掃除機などがそれである。

マーケティングは市場調査と訳されている。
日本企業で行われているマーケティングは実績ある市場における調査がほどんどです。
まだ第一線から離れたベテラン社員を担当にして、広告代理店など外部に委託する。

マーケティングとは市場創造、市場発掘であり、生産者から消費者に至る財ならびに
サービスの流れを推進するビジネスの諸活動であると定義されるものです。
これは当然ながら、製品の開発から販売に至る戦略作りが含まれています。

市場における消費者の好みや動向を調べて、選ばれる製品を企画して提供するため
の戦略全般がマーケティングです。

コンプライアンスは法令尊守と訳されます。
もっとも適している訳は迎合性です。社会の変化に適応する柔軟性のことです。
見たくないものを見る、聞きたくないことも聞く、考えたくないことも考える、あっては
困ることをキチンと捉える、発生頻度が低いことでも想定内として考えておくなどである。

日本の強みと弱み

ものつくりという言葉を「もの」と「つくり」に分けます。

「もの」は付加価値を生み出す能力であり、ワクワク・ドキドキさせる製品を企画する能力です。
「つくり」は「もの」を具体的な形にする能力です。わかりやすく言えば生産技術です。

日本のものづくりは人々の欲求をくんでそれを満たす新たなものを創り出すよりも
どこかで誰かが考えて形にしたものを上手につくることに長けています。

全く新しい考え方やアイデアを生み出す「もの」のパートより、既にある考え方やアイデアを
より上手につくる「つくり」のパートが得意ということです。
それは消費者のニーズより、技術革新が優先されていた。

日本のものづくりにおいて一番の弱点は、製品開発が消費の本質を考えずに行われてきた
点ではないだろうか。技術の高さや機能の豊富さが日本製品の特徴ですが、実はそれが
消費者を満足させているとは限らない。むしろそれを実感できない使い方がなされている。

その製品が消費者に求められているかどうかは、消費の実態で判断すべきである。

グローバル化とデジタル化ものづくり時代に世界の市場を席巻しているのは「つくり」より
「もの」のパートに長けている企業です。

技術には基礎技術と応用技術がある。
基礎技術はある機能を実現するときに根幹になるものです。
こちらは科学技術という言葉に置き換えることができる。
一方、応用技術は基礎技術を使ってある機能を実現する。
具体的な製品をつくるための技術です。

日本企業は基礎技術をたくさんもっているものの、あまり
生かされていない。逆に後発の海外メーカーがそれら技術を
利用して製品開発をしている。日本企業は応用技術に弱い
ということです。

日本は「つくり」に強いこだわりがあるので開発から生産まで一貫して
行う垂直統合型がメインです。生産や品質を管理しやすいという
メリットがある。「つくり」を外部に任せるのが水平分業です。
品質を維持しにくいデメリットはあるものの、製造コストを大幅に削減
できるし、製品を低価格で提供できる。

日本の強みは技術力です。
躍進している中国や韓国の企業は日本や欧米で開発された基礎技術
をうまく組み合わせて使っているに過ぎない。
実はそれはその国の文化と大きく関わっている。
韓国は過去に何度も隣国に攻められた経験がある。
だから、不安定な状態で国家運営がなされる状態が長く続きました。
そのせいで、国内ではすぐに結果が出る活動が好まれるし、逆に
結果がでるまで時間がかかる研究開発のような地道な活動は
避けられる傾向がある。中国も同じ傾向がある。

日本企業がR&Dに力を注ぐことができたのは、日本の国政が安定して
いて、継続かつ長期的な活動がしやすいからです。技術が著しく進んで
いる今は、既存の技術の組み合わせで全く新しい製品をつくりだすこと
ができる時代だ。従来なかった全く新しい技術によるイノベーションを
起こせるとなると、ものづくりの幅は広がる。

日本は基礎技術だけでなく、生産技術も磨いてきた。
同じような製品を上手につくる能力に長ける企業がたくさんある。
問題なのは、必要以上の品質へのこだわりです。
過剰品質は結局のところ生産性の低さにつながります。
消費者の望んでいない品質のためにコストや時間をかけている
のは無駄以外の何者でもない。

日本企業の機会と脅威

脅威はデジタル化です。
日本企業の強みである金型が、切削加工や3Dプリンターの積層
に変わっていくのではないか。3Dプリンターを利用すれば1万ショット
ぐらいの試作金型程度のものはつくれるようになる。

日本企業はリーダーを育てて、組織改革を行うことがポイントになる。
組織は長く活動していると「形式主義」「数量主義」「管理主義」など
官僚化していく。全てにおいてスローになる。

ライバル企業の動きを見て、じっくり自分たちの動き方を考えるなんて
悠長なことをやっていたら、取り残されてしまう。
トップは決断に必要な情報を収集して、組織の未来を左右する重要な
情報が瞬時に入るような体制を築くことが求められる。
外の世界とすっかりつながりを持って、外部から自分たちの会社を
冷静に見ている、信頼できる人や組織の意見をいつでも聞ける状態
をつくることです。また最終的に決断を行うトップをサポートして、正確
な情報を素早く上げてくれる体制を社内構築できたら、重要な決断を
素早く行うことができるようになる。

マザー工場は日本に残すべき。そうすることである国から撤退しても
次に展開できる。

要するに日本のものづくりが低迷しているのは世界市場で戦える力を
失ったからです。

世界で勝ち抜くための十ヶ条

1.顧客にワクワク感を与えて、高くても売れるものを実現する

競争力とは安いことではない。コスト競争力ではなく選ばれる力である。

サムスン電子は先進国のニーズを把握したら、リバースエンジニアリングを
行う。リバースエンジニアリングを用いれば、既存の技術を組み合わせること
によって製品を開発できる。それでワクワク感をだせればいい。

リバースエンジニアリングは機能単位に分解して再構成する。
新たな技術を開発せず、多様な製品を生み出す。
部品も独自開発するのではなく、汎用部品ばかり組み合わせることで
短期間に設計する。

生産技術、生産管理、現場改善といった能力とは別に、ワクワクするものを考え
出す能力が重要だとわかる。

2.意志決定を速めよ

上意下達ではなく下意上達。カギはトップよりスタッフが握る。
考えるのはスタッフ、判断は会長。権限委譲と中央集権。

3.品質は松竹梅に造りわけよ

ニーズに応じた多様な設計と製造の造り分けによってユーザーを確保せよ

4.市場となる地域を根本から理解せよ

進出国の文化まで知らなければニーズはわからない。

5.特殊部品へのこだわりを捨て、汎用部品で製品を作れ

目的は早く安く売ること、特殊部品には販売機会を失うリスクも

6.リバース・エンジニアリングはクリエイティブである

日本製品の設計思想を解析し、別の製品として市場を奪う

リバースエンジニアリングは既に市場にある製品を基に、より改良した
製品や安価な製品を開発し、それを大量に販売するための方法だ。
高い市場占有率を得られると、利益が大きく拡大するのがこの製品の
特徴である。

次の段階がフォワードエンジニアリングと言う。
イノベーションによって高度な製品を独自に開発して販売する方法だ。

製品の基本構造を決めるまでが設計の仕事である。
どのような機能をどのような構造で実現するか決める活動が
リバースエンジニアリングである。

7.検査は不良コストと心得よ

検査基準は顧客が決める。メーカー自己都合の活動はいらない。

8.QCDの考えは作り手の都合にすぎないと自覚せよ

顧客視点に立つからこそ、QCD(品質・コスト・納期)は使わない。

9.海外に技術を積極的に出して仲間を増やせ

つくりのレシピを公開。逆転の発想で反転攻勢へ。

10.個の強い人材を育てよ

どこでも寝られる。何でも食べられる。誰とでも話せる。





現場主義の競争戦略

現場主義の競争戦略: 次代への日本産業論 (新潮新書)現場主義の競争戦略: 次代への日本産業論 (新潮新書)
(2013/12/14)
藤本 隆宏

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日本の産業の強み弱みを冷静に分析して進むべき方向性を提示している
良書だと思います。希望を持たせてくれる本だと思います。

そもそもひとつの産業は同種の現場の集まりである。したがって現場発の
下から見上げる産業論は成立しうる。産業には表と裏の顔がある。
表側は市場に向き、裏側は現場が支えている。表の産業力は市場や顧客
から見える指標、例えば出荷額、売上高、成長率、価格などで把握する。
裏の産業力は現場の指標、例えば生産性、原単位、生産リードタイム
不良率などで測る。

日本の産業力は表層の現象、結果として出荷額の増減などで評価される
傾向があった。著者は日本の強い現場は概ね健全な対応をしているので
すが、一部日本企業、特に大企業の本社や経営陣の一部にもう日本で
ものをつくるのをやめようかという空気がある。

企業が海外生産を行う基準は大きく二つあって、第一は市場立地です。
輸送費、関税、現地政府の国産化政策、消費者イメージ、現地での販売
生産、開発の連携などの理由から、その製品のまとまった市場が存在
するのなら、現地工場を建て、そこから市場へ供給する。

第二は比較優位立地で、その製品を作るのが最も得意な国に工場を
建てるという適材適所の考え方です。問題は合理的で長期的な判断
ではなく、よそも出たらうちも出る、新聞に書いてあるので出遅れるな
など短期的な判断で国内工場閉鎖を決めてしまうことです。

日本には多能工チームワークを得意とするサッカー型の現場が多いので
その力が活きる製品なら日本の輸出企業として生き残りやすい。
第一は生産現場でチームワークが活きる製品。多工程持ちで圧倒的な
生産優位を築く。第二は設計現場でチームワークが活きる製品。
細かい設計調整をやらないと良い性能が出ない擦り合せ型設計製品が
そうです。

我々は現場現物の視点から競争力を考えますが、その基本は現場のもの
づくり組織能力と、現場の製品の設計思想、つまりアーキテクチャの相性が
良いかどうかです。

そう考えると、チームワークが持ち味の日本の生産現場や設計現場が得意
なのは、現場で調整をたくさんやらないと市場や社会が納得する性能が出
ないタイプの調整集約型の製品です。つまり機能と構造の連立方程式が
複雑なややこしい製品で私が擦り込み型とか作り込み型と呼ぶものです。

日本の産業にとって複雑な製品はリスクも勝機も両方ある。
複雑な製品の特徴は製品に対する顧客の機能要求や社会が課す制約条件
が厳しい。例えば自動車がそうである。

キリがない形で顧客の機能要求がどんどん厳しくなる。
社会的な規制が厳しくなる製品でこそ、日本の産業現場に生き残りのチャンス
があるのです。なぜならそういう製品は設計が複雑な擦り合せ型になりやすく
多能的な技術者によるチーム設計という組織能力が活きる世界なのです。

近年日本産業はデスクトップ型のパソコンなど多くのデジタル製品で競争力を
失った。それがデジタル化が進んでアーキテクチャがシンプルなモジュラー
(組合せ)型になってしまったからです。

いずれにせよ、厳しいグローバル競争の時代の日本人に必要なのは比較優位
を見極めた戦略的な産業観です。一国として何がやりたいかだけでなく、何なら
勝てるかという戦略的なものの見方です。

日本に残るべき良い現場を残す。これが現場発の成長戦略です。
どんな現場が残すべき良い現場なのか。例えば文句なしに低コストの現場。
コストは高いが生産性も高い現場、生産性は低くても短いリードタイムで
スピード勝負ができる現場。あるいは他国ではつくれない高品質・高技術の
ものが作れる現場、常に進化している現場、いまはコストで負けているが
抜き返す力を余している現場などである。

市場というのは案外長い時間をかけて、現場の淘汰を進めていくのです。
つまり執行猶予期間があるので、そのあいだに奮起して生産性を高めれば
生き残れるチャンスはある。能力構築競争とは現場間の長期競争のこと
です。

日本に良い現場を残すためには、まず国内現場の存否の最終判断を
すべき経営者や本社が、会社全体として能力構築を続ける意思を示し
また残すべき現場をしっかり残す現場評価能力を持つ必要があります。

複雑な擦り合せ型の製品とシンプルなモジュラー型の製品、つまり設計
思想の違う2つのタイプをグローバルに使い分ける。けれども組織能力
としてそれができる企業は日本に多い。

我々の考えるものづくりの概念は製造業にも非製造業にも通用する
広い意味のものだ。それはモノより設計をキーワードにした広い概念で
要するに良い設計の良い流れを作ってお客さんが喜んだ、こっちも
儲かった、雇用も守られたという状態を目指す経済活動全てのことを
いいます。

良い設計の良い流れを作るための全ての活動が広義のものづくり
なのです。付加価値は設計に宿るので、お客様へ向かうその流れ
を作るのに貢献する人は、生産でも設計でも購買でも販売でも、
全てものづくりに関与していることになります。

良い設計情報の発信によって顧客経験の良い流れを作ろうとする。
物財は構造設計情報が有形の媒体に転写されたもの、サービスは
機能設計情報が無形媒体に転写されたもの。

製品とは設計情報が媒体=素材に転写されたものである。
媒体が有形であれ、無形であれ強い現場は強い現場であり
良い設計の良い流れでもってお客さんを喜ばせている。
トヨタ生産方式だけでなく、花街の芸妓さんや舞妓さんもそう。

現場発の産業政策は何かといいますと、良い現場を国内に
残すこと。現場が良い設計の良い流れを作らない限り期待する
付加価値は生まれない。

全国の製造業と非製造業の現場がものづくり知識を共有しつつ
日本全体の生活水準をさらに向上させていくこと。これが現場発
の産業論の基本だと考えます。

大企業も中小企業も、製造業も非製造業も、総力を挙げて良い設計
による有効需要の創出に取り組む。よい商品企画で国内外の顧客
を創造するのです。

企業はそうした良い設計や良い流れ、言い換えれば良い商品、良い
現場を的確に評価する能力を確保する。国は財政金融政策などを
通じて有効需要を創出し、民間が埋めきれない需給ギャップを埋める。
これらが揃わないと、次世代の生活水準を我々世代よりよくしていく
ことは難しい。

製造業と非製造業の現場が一体となり、互いに補完し、学習しながら
生産性向上と需要創造を両輪として回していく。それが現場発の成長
戦略です。

生活者・企業・現場の三者が考える国家政策を。
企業か、生活者かではなく、次世代の生活水準を良くしようという目標
を実現するためには、それに加えて良い現場の能力構築という第三の
軸が加わればいい。

資本の論理で動く企業と地域的な存在である現場は異なる社会的な
存在である考えたほうがわかりやすい。現場は自らの存続と雇用を
かけて良い設計と良い流れの能力構築をする。
大企業はこれを活用して利益と成長を追求する。
中小企業は企業と現場という二つの顔を持つので、利益よりも存続
と雇用を重視する傾向がある。

付加価値作業時間比率というトヨタ方式で大事にする数字。
これが3倍になれば、他の条件が一定の時現場の物的生産性も
3倍になる。

トヨタ流の稼働分析では賃金を払っている労働時間を3つに分類します。
第一はお客様が喜ぶ付加価値を生んでいる時間。ものづくり経営学では
設計情報転写時間。お客様に向かって付加価値のある設計情報が流れ
ている時間。第二は付随時間。必要だが価値を生んでいない時間。
例えば部品や工具を取りに行く歩く時間などである。第三はムダで
必要でもないし付加価値を生まない時間。付随時間が多くの職場で
膨大にあることに注目してしっかり改善することです。

新興国の拠点で生産性や品質の向上のやり方を教える先生となる
マザー工場が本国である日本になければ今後はグローバル経営
そのものが厳しくなる。

産業競争力の観点から、いまの電力論に欠けているのは電力の
質の確保という点です。電力の品質確保は日本の高付加価値系
の産業の一部にとっては非常に重要な立地条件の一つである。
日本の電力品質の高水準を保てなければ、日本の高度な産業
構造を支える分野、繊細な温度管理を必要とする特殊鋼メーカー
高機能鋳物の工場も競争力を失うか、同レベルの品質で安い
電力を求めて海外へ出ていってしまう可能性がある。

日本の産業や現場がこの先どうなっていくのか。

①一時は絶望的に大きかった主要な新興国との賃金格差がついに
 縮小し始めた。

②90年代以後の逆境機にも能力構築を続けてきた日本の優良な
  貿易財現場は、その多くが新興国の工場に対して生産優位を
  保っている。

③そうした優良現場の多くが大幅な生産性向上の余地をまだ残して
  おり、新興国工場のキャッチアップに対して生産性の優位を維持
  できる可能性がある。

ただし、それには3つの条件がある。

①今後も能力構築と生産性向上を続ける意思と能力がある良い現場
  に限られること。

②比較優位の原則がある以上、全ての産業と現場で競争状況が好転
  するわけではない。

③現場の復調と企業の復調が必ずしも一致しない。

一般に経済は産業の集まりであり、企業の集まりである。
同種の設計のものをつくる現場の集まりが産業であり、同一資本が支配
する様々な現場の集まりが企業、この二つが重なるところに事業が生み
出される。産業も企業も結局は現場の集まりです。ものづくりの現場とは
付加価値が生まれる場所であり、それが集まれば一国経済や世界経済
になる。物的生産性向上をもたらすのは良い現場です。

ものづくりの組織能力とは、要は良い設計の良い流れを制御する組織
ルーチンのシステムです。ルーチンとは型通りの仕事の仕方のことで
トヨタ生産方式に関わる組織能力は、約400のルーチンが連動する
システムと言われている。

ものづくりの組織能力を制御するのは生産だけでなく、顧客と企業の間
を循環する設計情報の流れの全体です。顧客の本質的な価値を先取り
する製品のコンセプトの創造からはじまり、それを技術翻訳する機能設計
形や材質に翻訳する構造設計、さらに工程設計、生産準備、購買、生産
販売、サービス最後に顧客の消費これらの設計循環の全体を良い流れ
にするための様々なルーチンの集まりがものづくりの組織能力です。

アーキテクチャは機能設計と構造設計の対応関係で設計思想と呼ぶ
ことがあります。アーキテクチャには大別して機能要素群と構造要素群
が多対多で複雑に絡んだ擦り合せ型(インテグラル型)とそれらが1対1
でシンプルに結びついた組み合わせ型(モジュラー型)があり、実際の
工程は大抵どこかに位置づけられます。

ダントツ技術

ダントツ技術 (祥伝社新書)ダントツ技術 (祥伝社新書)
(2013/09/30)
瀧井宏臣

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アメリカの経済誌2012年度版フォーチュン・グローバル500売上高ランキングに
ランクインした日本企業は68社あった。これはアメリカの132社・中国の73社に
次いで3位です。また東証一部上場中149社が、世界シェア8割以上を有する
独走状態の商品を持つといいます。

それらに共通するのは独創的な技術です。
思いもよらぬ発想から生まれ、試行錯誤を経て完成した製品はどこも真似でき
ないものだった。この本では4つの代表的な企業をとりあげて、それを生み出し
た背景には何があるのか分析しています。

ハーバード大学東アジア研究所のエズラ・ヴォーゲルが1979年にジャパン
アズナンバーワンを出版した。ヴォーゲルは58年~60年、75年~76年に
日本に移住して日本の社会構造を研究した研究者です。
日本は戦後急成長しGNPではアメリカに次いで2位になった。アメリカは
大きな対日貿易赤字を抱え、その原因は日本の保護主義であると喧伝
されていましたが、ヴォーゲルは強い国際競争力ゆえであるとしています。

日本の平均的労働者がアメリカの勤勉な労働者レベルの意欲と生産性を
有し、日本独特の終身雇用制度、年功序列性、長期計画、会社への忠誠心
とりわけ注目したのが、日本企業が目先の利益よりも長期的な利益を重視
した点です。将来に備えて社員を研修させることはもちろん、将来採算がと
れそうな研究開発に投資し、設備の近代化にも投資する。それが日本の
強みであり、そうした長期を見据えた経営が可能だったのはメインバンク
から資金をふんだんに調達できる環境にあったとヴォーゲルは指摘しています。

日本経済はかつてなぜ強かったのか。答えは一つではありませんが研究
開発への投資が大きかったといいます。最近ではリストラをして短期で黒字に
転換することがもてはやされ、日本企業の多くが欧米流の強欲資本主義に
飲み込まれつつあるように見える。2000年頃までは日本企業の多くは地道な
研究開発を続けて、すぐさま売上や利益に結びつかなくても、中長期で増益
を目指す経営哲学を持っていた。

コツコツ基礎技術を磨いて、10年か15年後に花を開かせ、実を結んできた
のが日本企業の強みだった。それを国や政府がバックアップする。
欧米の磨けばダイヤになるのか2~3年で見極め、ダメだと判断したら
バッサリと切り捨てるのは違うのではないか。企業は未来永劫栄える
ことを目指しているわけで、株主も高い配当を安定してもらえるのが一番
望ましいという専門家の意見が紹介されています。

浜松ホトニクスの場合

浜松ホトニクスでは短期利益アップにこだわる経営とは一線を画した、東洋
的な和の経営を目指している。「株主も大切ですが、社員も同じくらい大切
です。売り上げが落ちた時に社員を解雇するのが欧米のスタイルは私たち
の望むものではありません。やっぱり安定した持続可能な成長を目指したい。
そしてこういう経営スタイルもあるのだということも世界に発信していきたい」

シェア一位を獲得して維持している理由については、顧客の注文や要求に
耳を傾け、満足してもらえるように性能をアップし、シェアを伸ばしてきたこと
です。常に研究開発を続けていないと顧客の要求に対応できない。
もう一つは企業トップのブレない姿勢。世の中にないものを作れ。世界一を
目指せというトップの方針の下、顧客要望に応えるモノづくりを積み重ねて
きたという点だ。

未知未踏のものを追いかけていけば、新しい知識によるサイエンスが生ま
れる。その周辺に新しい技術が生まれ、技術の応用が考え出される。
そうなれば産業が創出される。それが人類に新しい生き方を与え、今まで
にない新しい価値観が生まれる。

我が国の経営者は産業を作って儲けることで、それを分配してしまい。
新しい生き方や新しい価値観を求めることをしてきませんでした。
結果としてモノは増えてお金持ちになったが生活が豊かになったわけ
ではない。産業は人類にとって新しい生き様、新しい価値観をもたらす
ものでなければならない。

日本経済再生の3つのポイント

1.世界標準の仕組みづくり。日本企業はいいものをつくる技術を持って
  いても、世界のマーケットを対象にした仕組みづくりがうまくいきません
  でした。日本国内向けの仕様を作って世界で受け入れられない
  ガラパゴス化がいい例である。

2.開発資金の選択と集中。日本がこれからどのような技術をメインにする
  のか、よく考えたうえで、政府が必要な予算を投じ、政府が大きなプロ
  ジェクトを進めていく。

3.ベンチャー精神の復活。何でもやってみよう、とにかくやってみようと
  未知未踏に挑戦するベンチャー精神が再び必要な時期にきている。
  中小企業に入って自分が大きくするんだというくらいの気概が必要。

クラレの場合

企業理念「世のため人のため、他人のやれないことをやる」

人まねではなく、独自の技術によって作ったものを社会の要請に応えるべく
世に出していくのが、クラレ創業当時から考え方である。

つながりのある業界に常にアンテナを立て、顧客から要望があると、営業や
技術スタッフが素材だけでなく、設備や製造、加工条件まで提案して問題を
解決する。そういう積み重ねがマーケットの拡大につながった。

1986年に制定された企業理念。
①個人の尊重 ②同心協力 ③価値の創造

行動指針
①顧客のニーズを基本とすること ②現場での発想を基本とすること
③積極的に行動を起こすこと

ハードロック工業の場合

基本理念
1.心豊かな創造性を磨き、無から有を生み出し進展させる
2.アイデアの開発を通じ、人と企業と産業社会の発展に貢献する。
3.この社会は我が社のための道場であり、見るもの触れるもの、全て
  我が師である

良いアイデアを考案するためには利他の精神が重要になる。
顧客や多くの人たちにどうしたら喜んでもらえるか考えを巡らせること
がアイデアの源である。

オンリーワン商品を生み出す秘訣
①すべてのものに好奇心を持ち、見て、触れて、感じる
②世の中の商品は全て未完成(60%~70%)である。どうすれば
  もっと便利になるか考える。
③世の中のものは全て組合せで成り立つ。

営業で成功するポイント
1.最初はトップ自らがあたる
2.最終ユーザーの評価・ニーズを把握する
3.知名度を上げる努力を怠らない
4.何でもいいから他社にはない特徴をつくる
5.情熱をもって粘り強くあたる

営業は最終ユーザーに商品情報を届けるだけでなく、顧客ニーズ
を吸い上げる機会でもあります。顧客のニーズが把握できなければ
新商品開発もできません。

ロングセラー商品のポイント
①ひとつのテーマを徹底的に掘り下げる
②特許期限を一日でも長く伸ばす工夫をする
③開発者が情熱注ぎ込む

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