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日朝正常化の密約

日朝正常化の密約(祥伝社新書)日朝正常化の密約(祥伝社新書)
(2014/11/04)
青木直人

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2002年の小泉訪朝。そこで交わされた日朝平壌宣言と国交正常化。
日朝平壌宣言では至れり尽せりの援助が明記された。
その援助総額は1兆円を超えると推定されている。
しかもアンタイドローン(ひも付きではない)ので日本企業が受注
できるわけではなく、北朝鮮側に指名権があるという。
日朝平壌宣言の詳しい内実については政治家、外務官僚が知る
のみで、ほとんど国民に知らされていない。

そして、ここにきて安倍政権はこの平壌宣言を再確認するという
ことを行い、北朝鮮もそれに応える形で日本に急接近している。
北朝鮮では政権No.2といわれた張成沢が粛清、処刑された
ことで、唯一の支援国である中国と関係が決定的に悪化、習近平
体制が北朝鮮という古い友人に見切りをつけ、韓国との関係構築
へ舵を切り始めたという背景がある。

戦略的には日本側が非常に優位な立場にある。
しかしながら、外務省が正常化に向けて前のめり、そして日本の
マスコミがあたかも拉致被害者が帰ってくるかのような報道で
かえって日本側が和解を求めているというメッセージを送って
しまっている。現に北朝鮮側は拉致に関して説明するから
平壌まで来るように言い出す始末である。
ならば、日本側の優位を決定づけるには平壌宣言の破棄を
ちらつかせるだけでいい。国交正常化を日本側が急ぐ理由
はない。

旧財閥三井グループは戦前大陸と朝鮮に大きな権益を有して
いた。現在は北朝鮮ビジネスの情報収集機関になっている
東アジア貿易研究会は三井物産が財政的な支援を行って
いる。

日本のODAは低金利の長期借款供与、円借款がありODAの
90%を占めている。日本のODAは道路、鉄道、空港、通信など
経済インフラを援助の対象案件にできる。
この日本の円借款は世界に例がないアンタイドローンという
援助スタイルなのだ。アンタイドとはヒモがついていない。
普通援助は援助する国のヒモ付きがあたりまえである。
日本のアンタイドローンはどこの国の業者であろうと、相手国
が決めることができる。北朝鮮で言えば金正恩が決定する
ことができるのだ。そうなれば、内外企業が賄賂攻勢に出る
ことは明らかである。

なぜそうなったのか?
円借款をタイドローン(ひもつき)ではなく、アンタイドローン
にしろと強要してきたのは米国である。
1979年10月の日米事務レベル経済協力会議において
日本側が外務省、通産省、米国側が国務省、財務省、商務省
エネルギー庁のトップだ。
この場で、米国側が日本からの中国向け円借款は全て
アンタイドローンにすること、しかも中国との取り決め文書にて
明記せよという強硬な内容だった。米国側は円借款を利用して
日本が中国市場を独占するのではないかという疑心暗鬼が
あった。

このアンタイドローンが北朝鮮向けでも適用されるのである。
ロシア、韓国、中国も日本のODAにたかろうとしている。
日本のODAは日本国民が納めた税金です。
それを一種の国際共有財とされてしまった。
外務省もそれを受け入れ、JICAなどの援助機関もこれに異を
唱えない。ジャパンマネーを自由に使えるキャッシュカードを
北朝鮮に渡していいのだろうか?

日本が朝鮮半島に残してきた資産は1945年8月15日時点で
総額資産はGHQの試算では891億1000万円に上る。
現在価格に換算すると16兆9300億円に相当する。
南北合計値がこの数字で、北朝鮮に残してきた資産に限ると
462億2000万円。総合卸売物価指数(190)を掛けると
8兆7800億円になる。

北朝鮮において中国の存在は圧倒的で、北朝鮮の貿易の
70%を占め、国内に流通している商品の70~80%が中国製
である。粛清された張成沢は中共の援助を媒介にしたトロイ
の木馬として排除された。

北朝鮮と中共との間には深刻な路線対立がある。
自主経済の破綻から北朝鮮は中国の支援と引き換えに
金日成以来の極左的な政策の修正が求められている。
労働党内部で近年、中国との援助や貿易に関与する
政府高官の中に、急速に富裕化する階層が出現し
彼らは中国と利害を共にする政治集団となりつつあった。
先軍政治路線を掲げる金正恩との対決は避けられなかった。

先軍政治体制とは戦時共産主義体制のことである。
特徴は党でも政府でもなく、軍が内政・外交に絶対的な影響力
を持っていることだ。北朝鮮は先軍政治を合法化し、憲法にも
軍首脳で構成される国防委員会に最高権限を付与している。
中国も文化大革命時代、林彪国防相率いる人民解放軍と
毛沢東を両輪とする軍事管理体制だった。

張成沢は開放経済と対外緊張緩和という内外路線を進め
中国はそれをバックアップしていた。緊張緩和すれば外資
が安心して北朝鮮に投資できるからだ。
また中国は投資に不可欠な関連法整備を求めた。
これは張とつながる経済官僚が力を持ち、軍や党の既成の
経済権利が侵食されるようなものだった。

2009年温家宝首相は北朝鮮を訪問した。環日本海開発戦略
において東北三省の対外開放、それにともない日本海進出
ルート(長春から羅津そして新潟へのルート)を確保するため、
北朝鮮の港湾設備と鉄道の改修を援助する代わりに、見返り
として資源の開発権を提供させる目的だった。

北朝鮮は援助の代償として港、鉱山、安価な労働力を提供
することになった。具体的には羅津港、鉱山では茂山鉄鉱山
になる。

2009年金正日は突然デノミ政策を実行した。
1世帯あたり10万ウォンを超える資産を没収した。
対中ビジネスを通じて成長してきた新富裕層に対する恫喝
と牽制だった。

中国が北朝鮮に求めるものは安定のみだ。
北朝鮮は中国に経済的に従属しつつ、政治的には自主独立
を保つことは果たして可能なのか。こうした二律背反は金日成
ならなんとか出来た。金正日もかろうじて乗り切った。
金正恩は政治的キャリアがない31歳の青年である。

北朝鮮は路線転換がなぜできないのか。
1.軍が絶対的パワーを握って離さない。
2.経済テクノクラートがいない。
3.外交的孤立脱却のシナリオが見えない。
なにより最高指導者が路線変更に消極的だということ。

結局のところ北朝鮮において政権交代があるとしたら
軍を中心とした政権内部だ。中国においては公安を握る
華国鋒と人民解放軍を握る葉剣英が手を握り、文革を
主導した江青ら4人組を逮捕した北京政変のような形に
なるのではないだろうかと著者は分析している。

著者は中国分析には定評のある方ですが、今回も北朝鮮
に関して非常に鋭い分析をしている。様々な思惑が錯綜
する北朝鮮において、日本がどのようなアプローチをする
のか。現在のところは日本は北朝鮮側にもそれに絡む
周辺国にも食われるような、極めて情けない状況だ。
特に北朝鮮との関係に関して主導する外務省の対応
はこの著書の通りだとしたら噴飯ものだ。
国民の見えないところでとんでもないことが進められて
いたというのが、小泉訪朝の負の部分なのではない
だろうか。そこにスポットを当てたところにこの著書の
価値があると思います。
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